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東京地方裁判所 昭和51年(行ウ)152号 判決

東京都新宿区四谷一丁目八番地

原告

新光建設株式会社

右代表者代表取締役

伊藤順市

右訴訟代理人弁護士

源光信

奈良道博

東京都新宿区三栄町二四番地

被告

四谷税務署長

右指定代理人

金沢正公

比嘉毅

宮渕欣也

服部昭一

小澤英一

主文

1. 原告の請求をいずれも棄却する。

2. 訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、原告

1. 被告が昭和五〇年一二月二六日付で原告の昭和四八年三月一日から同四九年二月二八日までの事業年度の法人税についてした再更正のうち所得金額六二七〇万四〇九九円を超える部分及び重加算税の賦課決定を取り消す。

2. 訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二、被告

主文と同旨の判決

第二、原告の請求原因

一、原告の昭和四八年三月一日から同四九年二月二八日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税について、原告のした確定申告、これに対して被告のした更正及び過少申告加算税の賦課決定並びに再更正及び重加算税の賦課決定の経緯は、別表記載のとおりである。

二、しかしながら、

1. 右再更正(以下「本件更正」という。)のうち所得金額六二七〇万四〇九九円を超える部分は、原告の所得金額を過大に認定したものであるから違法である。

2. 右重加算税の賦課決定(以下「本件賦課決定」という。)は、所得を過大に認定した本件更正を前提とする点において違法であり、かつ法人税の課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装した事実がないのにされた点において違法である。

よつて、原告は、本件更正のうち右所得金額を超える部分及び本件賦課決定の取消しを求める。

第三、請求原因に対する被告の認否及び主張

一、請求原因に対する認否

請求原因一の事実は認めるが、同二の主張は争う。

二、被告の主張

1. 原告の本件事業年度の所得金額は、原告の申告に係る所得金額三八八〇万九〇六四円に次の(一)ないし(五)の各金額を加算した一億二五八〇万四〇九九円であるから、本件更正は適法である。

(一)  謝礼金中損金不算入額 二〇〇〇万円

(二)  支払手数料中損金不算入額 二八〇万円

(三)  開発費償却中損金不算入額 一〇〇万円

(四)  売上計上漏れ 六三一〇万円

(五)  受取利息計上漏れ 九万五〇三五円

2. 右1の(四)の加算金額たる売上計上漏れについて

(一) 原告は、昭和四七年四月二二日に太平住宅株式会社(以下「太平住宅」という。)との間で鎌倉市城廻字打越所在の土地九筆及び同市植木字植谷戸所在の土地六筆合計八五四五平方メートル(以下「本件土地」という。)を代金二億四三一〇万円で売り渡す旨の契約をし、右売買代金として太平住宅から同日に八〇〇〇万円、同年五月二〇日に一億円、同四八年一〇月三一日に六三一〇万円をそれぞれ受領した。

(二) 原告は、昭和四七年四月二二日受領の八〇〇〇万円及び同年五月二〇日受領の一億円の合計一億八〇〇〇万円については同年三月一日から同四八年二月二八日までの事業年度の決算において売渡登記済前受金勘定に計上し、本件事業年度に属する同年六月二五日に売上勘定に振り替えたが、同年一〇月三一日受領の六三一〇万円については売上げに計上しなかつた。

(三) 以上のとおり、本件土地の売上金は二億四三一〇万円であるのにかかわらず、原告は右売上金として本件事業年度において一億八〇〇〇万円を計上したのみであるので、六三一〇万円を売上計上漏れとして本件事業年度の所得金額に加算すべきである。

3. 本件賦課決定について

(一) 原告は、前記受領額六三一〇万円を売上げに計上せず、東京商銀信用組合本店における原告の架空名義(孫性斗、朴炳澤、裵仁甲、朴泰敦)の簿外預金に預け入れ、また右簿外預金の受取利息九万五〇三五円を計上しなかつた。

(二) 右は、本件事業年度の法人税の課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に該当し、原告は右隠ぺい又は仮装したところに基づいて確定申告書を提出したのであるから、本件更正による増差税額に基づき国税通則法第六八条第一項の規定を適用して本件賦課決定をしたものである。

第四、被告の主張に対する原告の認否及び反論

一、被告の主張に対する認否

1. 被告の主張1.の各加算金額のうち、(一)ないし(三)及び(五)を加算すべきことは認め、(四)を加算すべきことは否認する。

2. 被告の主張2.の(一)のうち、原告が昭和四七年四月二二日に太平住宅との間で本件土地を売り渡す旨の契約をしたことは認めるが、右売買代金が二億四三一〇万円であることは否認する。原告が右売買代金として太平住宅から同日に八〇〇〇万円、同年五月二〇日に一億円をそれぞれ受領したことは認める。原告が太平住宅から同四八年一〇月三一日に六三一〇万円を受領したことは認めるが、右金員が右売買代金であることは否認する。

同(二)のうち、原告が昭和四八年一〇月三一日受領の六三一〇万円を売上げに計上しなかつたことは認める。

同(三)の主張は争う。

3. 被告の主張3の(一)の事実は認めるが、右事実が法人税の課税標準又は税額の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に該当することは争う。

二、原告の反論

1. 原告は、太平住宅から本件土地の宅地造成を請け負い、原告において宅地造成の上引き渡すことを条件として太平住宅に売り渡す旨の契約をしたものであり、本件土地の売買代金は一億八〇〇〇万円であり、六三一〇万円は右宅地造成費である。このことは、右契約に係る土地売買契約書第一一条の特約条項の記載、本件土地の売買代金と宅地造成費の合計額二億四三一〇万円は造成後の有効面積を基準とし、素地価額に宅地造成費を加算した坪当り単価から算出し、約定されていたこと、及び原告の昭和四七年三月一日から同四八年二月二八日までの事業年度の確定決算報告書の当年度営業概況書の記載から明らかである。

2. 六三一〇万円受領の経緯は以下のとおりである。即ち、右契約後昭和四八年夏に至り、本件土地の宅地造成につき神奈川県知事による開発行為の許可を得ることができないことが確実となり、右宅地造成が不可能となつたため、原告は右契約に基づく債務を履行することができなくなつた。そこで、原告は、同年八月一六日に太平住宅との間で本件土地を前記売買代金一億八〇〇〇万円に売買契約の日の翌日からの金利及び太平住宅の要した諸経費の合計二三〇〇万円を加算した二億〇三〇〇万円で買い戻す旨の契約をし、同日二〇〇〇万円を支払つた。ところが、太平住宅では当初の売買契約に係る本件土地の仕入代金につき前記宅地造成費六三一〇万円を含めた二億四三一〇万円として経理処理しており、太平住宅から右経理処理を変更しないで右買戻契約を処理したい旨の要請があつたので、原告は右要請を受け入れ、原告と太平住宅との間で、右買戻契約の代金額を前記二億〇三〇〇万円に六三一〇万円を加算した二億六六一〇万円とする旨の同月三〇日付土地売買契約書を作成し、同月一六日付で作成した契約書及び領収証を破棄した。その後、原告は太平住宅に対して同年一〇月一一日に一億円、同月三一日に一億四六一〇万円をそれぞれ支払い、同日太平住宅から六三一〇万円を受領して、本件土地に関する太平住宅との取引を清算したものである。

第五、原告の反論に対する被告の認否及び反論

一、原告の反論に対する認否

原告の反論1の事実は否認する。

同2.のうち、太平住宅では本件土地の仕入代金につき二億四三一〇万円として経理処理していたこと、原告が太平住宅に対して昭和四八年八月一六日に二〇〇〇万円、同年一〇月一一日に一億円、同月三一日に一億四六一〇万円をそれぞれ支払い、同日太平住宅から六三一〇万円を受領したことは認めるが、本件土地の宅地造成が神奈川県知事の許可を得られず不可能となり、原告が本件土地の売買契約に基づく債務を履行することができなくなつたことは知らない。その余の事実は否認する。

二、被告の反論

1. 原告が太平住宅との間で本件土地の宅地造成を請け負う旨の約定は存せず、原告主張の特約条項は、売買代金の支払方法を記載したに過ぎない。

2. 原告の本件土地買戻しに係る代金額は、土地売買契約書に記載のとおり二億六六一〇万円であり、同金額が原告から太平住宅に現実に支払われている。そして、原告も本件土地につき同金額で仕入勘定に計上し、かつ期末在庫にも計上している。

第六、証拠関係

一、原告

1. 提出した書証

甲第一、第二号証、第三号証の一、二、第四号証、第五号証の一、二及び第六ないし第九号証。第九号証は御木浩美が昭和五一年九月一〇日に本件土地を撮影した写真である。

2. 援用した証言等

証人三上公平の証言及び原告代表者尋問の結果

3. 乙号証の成立の認否

乙第五号証、第九号証、第一五号証及び第一八号証の成立(第五号証及び第一五号証については原本の存在及び成立)は知らない。その余の乙号各証の成立(第一号証の一ないし四、第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証の一、二、第七号証及び第一〇ないし第一四号証については原本の存在及び成立)は認める。

二、被告

1. 提出した書証

乙第一号証の一ないし四、第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証の一、二及び第五ないし第一八号証(第一号証の一ないし四、第二号証の一ないし三、第三号証、第四号証の一、二、第五号証、第七号証及び第一〇ないし第一五号証は写をもつて提出)

2. 援用した証言

証人西田為厚の証言

3. 甲号証の成立の認否

甲第二号証の成立は知らない。第九号証が原告主張の写真であることは知らない。その余の甲号各証の成立は認める。

理由

一、請求原因一の事実は当事者間に争いがない。

二、そこで、本件更正に原告主張の違法が存するか否かについて判断する。

1. 原告の申告に係る所得金額に被告の主張1.の(一)ないし(三)及び(五)の各金額を加算すべきことについては当事者間に争いがない。

2. 被告の主張1.の(四)の加算金額たる売上計上漏れについて

原告が昭和四七年四月二二日に太平住宅との間で本件土地を売り渡す旨の契約をしたこと、原告が右売買代金として太平住宅から同日に八〇〇〇万円、同年五月二〇日に一億円をそれぞれ受領したこと、及び原告が太平住宅から同四八年一〇月三一日に六三一〇万円を受領したことは当事者間に争いがない。

そして、成立に争いのない甲第一号証、原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証の二及び第一〇ないし第一二号証、証人西田為厚の証言により成立の真正を認められる乙第九号証並びに同証言によれば、右契約による本件土地の売買代金は二億四三一〇万円であり、右八〇〇〇万円は手附金として、右一億円は中間金として、右六三一〇万円は残金としてそれぞれ支払われたことが認められる。

原告は、本件土地の売買代金は一億八〇〇〇万円であり、六三一〇万円は原告が太平住宅から請け負つた本件土地の宅地造成の費用であると主張し、右六三一〇万円受領の経緯につき、神奈川県知事の許可が得られず、右造成が不可能となつたため、原告において本件土地を買い戻すに際し、既に太平住宅が本件土地の仕入代金を二億四三一〇万円として経理処理していたことから、同社の要請に応じ、買戻しに際し買戻代金額二億〇三〇〇万円に六三一〇万円を加算した金員を支払うとともに、太平住宅から六三一〇万円を受領したものであると主張するが、前掲甲第一号証によつて認められるところの、六三一〇万円を「残代金六三一〇万円」と表示し、これを「宅地造成工事を完成し、検査済後、本物件引渡の時」に支払う旨が記載されているにとどまる本件土地の売買契約書の記載、証人三上公平の証言により原本の存在及び成立の真正が認められる乙第一五号証及び同証言によつて認められるところの、本件土地売買に係る仲介手数料として二億四三一〇万円の三パーセント相当額が支払われている事実、いずれも原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証及び第四号証の二によつて認められるところの、原告は本件土地の買戻しにより原告が買戻代金額と主張する二億〇三〇〇万円に六三一〇万円を加算した二億六六一〇万円を仕入勘定に計上し、かつ期末在庫にも本件土地を同金額で計上している事実並びに証人三上公平の証言及び原告代表者尋問の結果によつても土地造成費を六三一〇万円と算出した計算関係は必ずしも明らかでないことに照らせば、原告の右主張に副う証人三上公平の証言及び原告代表者尋問の結果は到底措信し難く、他に本件土地の売買代金額とその受領に関する前記認定を左右するに足る証拠はない。

原告が前記八〇〇〇万円及び一億円の合計一億八〇〇〇万円について昭和四七年三月一日から同四八年二月二八日までの事業年度の決算において売渡登記済前受金勘定に計上していることは、成立に争いのない甲第五号証の二によつて認められ、本件事業年度に属する同年六月二五日にこれを売上勘定に振り替えたことは原告において明らかに争わないところであり、原告が前記六三一〇万円を売上げに計上しなかつたことは当事者間に争いがない。

そうすると、本件事業年度において、本件土地の売上金は前記認定のとおり二億四三一〇万円であるのにかかわらず、原告は右売上金として一億八〇〇〇万円を計上したにとどまることとなり、六三一〇万円が売上計上漏れとして原告の本件事業年度の所得金額に加算さるべきこととなる。

3. そうすると、原告の本件事業年度の所得金額は、その申告に係る所得金額三八八〇万九〇六四円に被告の主張1.の(一)ないし(五)の各金額を加算した一億二五八〇万四〇九九円となる。したがつて、本件更正に原告主張の違法は存しない。

三、次に、本件賦課決定について判断するに、本件賦課決定の前提である本件更正に所得を過大に認定した違法がないことは右二に認定のとおりであり、また被告の主張3.の(一)の事実は当事者間に争いがないところ、右事実は、本件事業年度の法人税の課税標準の計算の基礎となるべき事実の隠ぺい又は仮装に該当するから、課税標準等又は税額等の計算の基礎となるべき事実を隠ぺい又は仮装した事実がないのに賦課決定をした違法もない。したがつて、本件賦課決定にも原告主張の違法は存しない。

四、よつて、原告の本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法第七条、民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 三好達 裁判官 菅原晴郎 裁判官 成瀬正己)

別表

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